SDGsで地方都市がやるべきことを考える ④包摂的かつ持続可能な社会について考える事。地域資源を最大限に活用し、地域の活力を最大限に発揮する地域循環共生圏について考えよう。

SDGsのはなし

SDGsTOUR4つ目のテーマとして挙げるのが、〝包摂的〟というワードです。
これは、〝経済・社会において、本来関係するライン以外の、別のラインの存在を取り込む〟ということです。

これは縦ラインと横ラインという風にで考えると分かりやすいと思います。

〝ものづくり〟でいうと、本来の縦のライン=資金があって、材料があって、職人がいて、機械があって、販売者がいて、購入者(顧客)がいて、また資金となって循環する1本の流れが〝縦ライン〟です。
(場合によってはこれに問屋や代理店、その他が入ることもあると思います。)

横のラインは、直接的には関係してませんが、間接的に関わっている、または並行して存在しているものの事です。例えば材料や機械が作られるために必要な資源、エネルギー、水、他業種企業、または職人の家族、広告代理店、デジタル技術等、多岐にわたります。

例に挙げると、地方都市で海洋テーマパークを造る計画がある、大都市の企業があるとします。
縦のラインだけで考えて実行すると、事業がスムーズに進むように見えますが、いざ実現すると、海が汚れたと漁業関係者から苦情が入る、たくさんの来訪者が訪れることで、街にゴミが増えゴミ処理費用が増加する、またポイ捨てによる生活環境の悪化が起こる、地元商店街が客を取られたと騒ぎ出す、等々が起こり、〝海洋レジャー施設に地域住民からの反発の声〟という記事がメディアで見られるようになる、ということが予測できます。

最初は地域経済の活性になると歓迎した行政の協力者も、世間の声が反対に傾くことで少しずつ離れていき、最後に残るのはさびれたレジャー施設と商店街、悪化した自然環境という事になる可能性があります。

最初から横の繋がりを考慮して地域連携を深めておいた場合、地域商店街と共同イベントを開催する、自然に配慮したクリーンエネルギーを使用する、ゴミを減らす工夫をする、地元産の食材を積極的に使用し、漁業・農業関係者と上手にお付き合いする、など協働による成功の道が開けるかもしれません。
参考:実践 地方創生×SDGs 持続可能な地域のつくり方みらいを 著者 筧 裕介



もう一つ例を挙げますと、近年言われるようになった〝公平性〟についてです。公共で使用される施設の場合、トイレを綺麗で最新設備にする施設は増えています。当然お客様からも好評です。

しかし包摂的な社会として考えると、男女のトイレが綺麗なだけでなく、〝少数派の方向けのトイレもあった方がいいよね・・ということになります。
例えば障害を持った方や高齢者向けの多目的トイレ(これは結構設置されています)、そして〝共用のトイレ〟です。(共用トイレのみというパターンは結構あります)

一つの施設に4つのトイレ(男性用、女性用、多目的用、共用)があれば、多様な性差の問題に関するストレス、また小さな子供同伴で訪れた方、怪我のため車椅子を使用する方など、普段は必要がない方で急遽必要となった方へのストレスを減らすことができます。

重要なのは誰でもある日突然、必要になる可能性があるということです。例えば身近な家族、そして自分自身にも突然に交通事故は起こり得ます。

自分毎で考えるには、自分自身がその立場にならないと難しいのですが、普段から〝包摂的社会について考え、寛容であることが大切です。
コスト面は施設の負担になりますが、このような配慮ができる施設が、今後評価される時代になるのではないかと考えられます。
参考:デジタルとAIの未来を語る オードリー・タン著


この様な包摂的社会と経済〟を推進しているのが環境省です。〝地域循環共生圏〟という取り組みを、地方創生推進のための重要施策としています。

これは各地域に昔から存在する自然景観や、資源、自然エネルギー、そして魅力ある佇まいなどをひっくるめて〝地域資源〟とし、それを最大限に活用して、地域全体で包摂的に支え合うことによって、地域の活力〟を最大限に発揮させるという考え方です。

包摂的社会と経済によって、今までにないアイディアが生まれる可能性があります。〝イノベーション〟です。

イノベーションというと、新しいテクノロジー(技術革新)を開発しなければならないと考えがちですが、実はそうではなく、ローテクとハイテク、またはローテクとローテクの組み合わせによって、イノベーションを起こすことが可能です。


例えば〝ドローンと農業〟の組み合わせがあります。ドローンの開発目的は本来軍事だったと言われています。第二次世界大戦中に開発が始まり、爆撃することを目的に開発されたそうです。
現在では上空から撮影する機能を使い、測量等で使用される機会が増えています。

ドローンを活用した海外での例を紹介します。農業において広大な土地で農業を行うアメリカでは、トラクターの自動運転による効率の良い農業が主流になりつつあります。
しかし、アジアの多くの国では、平地の大規模農場が少なくこのような技術は導入しづらいのですが、ここにドローンのシューター技術(弾を打ち込む機能)を用いて、田んぼに苗入りカプセルを打ち込む技術が生まれました。
これは〝ドローン〟というハイテクに、〝田植え〟というローテクが合体した、イノベーションの実例です。

もちろん品質だけで考えると、手で植えた方がいいのですが、食糧事情等により品質よりも大量生産が必要な国の場合、この技術が必要とされたという事です。
今後は品質の向上についても、テクノロジーの発展による改善が期待されています。

別の例として、インドでは水を汲む作業が各家庭(主に女性や子供)の大きな負担となっています。各家庭で井戸を掘れるといいのですが、設備投資のためのお金がありません。
そこで生まれたビジネスが、〝月額性の井戸掘りサービス〟です。企業側が初期費用を負担して井戸を作り、その井戸に対して複数の家庭から毎月の使用料をいただくというシステムで、一つの井戸に対して一定数の利用者が集まれば、どの村でも実施できるそうです。
〝月額性〟というローカルシステムと〝井戸掘り〟というローテクがによるイノベーションです。
参考:ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」著者 丸幸弘+尾原 和啓

このように縦のライン(業界)だけなく、横ライン(異業界)にも注視し、包摂的に連携を行うことで、地方都市や中小企業でもイノベーションを生み出すことは可能であると考えられます。

SDGsで掲げる包摂的かつ持続可能な社会とは、地域循環共生圏を確立し、地域循環型経済を仕組み化できるようになる事で、地域内において生産・消費・保全のサイクルで経済活動が回り、それによって私たちの未来の子孫たちのための資源や産業を奪う事なく、豊かな暮らしを実現できるようになる事だと思います。

もう一歩先に進めるならば、自地域の地方創生を成し遂げた後、システムや知識のシェアを行い、日本のあらゆる地域で地方創生が実現していく事が理想的ですが、そこには知識の悪用や私物・占有化、資源等の奪い合い等のリスクが存在しているため、そのような包摂的かつ持続可能な社会が実現するには、もう少し時間が必要なのではないかと考えられます。

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